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                                        2001年5月12日(土)稿
    「須藤説」に見る
       「学説のエスカレーション現象」の研究

                                          佐々木 正 己

 ここでいう、「須藤説」とは、須藤純正(すどう・すみまさ)氏が提唱された、次の「問題」
に関する学説(合併前資本合算説)をいう。
 「問題」とは、「合併前の存続会社の資本金」と「消滅会社の資本金」との合計額より、「合
併後の存続会社の資本金」が少なくなる場合について、「合併公告」の他に、「資本減少公告」
が必要か否か、である。

  「合併前」の存続会社の資本金+消滅会社の資本金>「合併後」の存続会社の資本金


【1】 昭和59年7月30日発行の「登記研究438号」において、須藤純正(すどう・
   すみまさ)法務省民事局付検事は、「昭59年3月28日民四第1733号民事局第四
   課長回答」に関する論文で、次のように、「資本減少公告」の要否について、問題を提
   起されたのみで、結論を出されなかった。

【資料1】 「登記研究438号」昭和59年7月30日 株式会社テイハン 発行
     「吸収合併により取得した自己株式の消却に伴う資本減少と減資公告の要否
     ――昭五九・三・二八民四第一七三三号民事局第四課長回答について――」
     須藤純正すどうすみまさ 法務省民事局付検事 27〜45頁
 「このようなケースにあっては、そもそも合併手続中で資本の減少が行われているのであろ
うか。手続を形式的にみれば資本の減少は行われてないとみるほかはないと思われる。そう考
えれば、合併公告には、あえて合併後の存続会社の資本金が、合併前の存続会社の資本金と消
滅会社の資本金の合計額より少なくなる旨を記載する必要がないことになろうか。そうであれ
ば、会社債権者の保護に関しては、合併が行われる場合には、公正な合併比率の要請によつて、
合併前の存続会社の資本金と消滅会社の資本金の合計額より、合併後の存続会社の資本金が少
なく定められることば一般に予想し得ることであるから、合併公告のみをすれば足りると考え
ることになるのであろうか。
 これは、形式的には資本の減少が行われない事案であるから、本件回答の射程距離を超える
問題であろう。このあたりの問題については、文献にもあまり触れられていないようなので、
問題点の指摘にとどめておく。
 結局、減資公告をも必要とする旨の本件回答の考え方を応用し得る場合は、合併時に、少な
くとも形式的には、資本の減少が行われるケースに限定するのが無難であろう。新設合併の場
合において、消滅会社間に相互の持株があるときにおける資本の増減の問題も、別個に検討を
要することになろう。」
(須藤純正「登記研究438号」45頁。アンダーラインは引用者が付けた。)


【2】 上記「登記研究」の発行後5日後に発行された、昭和59年8月5日発行の「商事法
   務1016号」においては、須藤純正(すどう・すみまさ)法務省民事局付検事は、同
   じく「昭59年3月28日民四第1733号民事局第四課長回答」に関する論文で、次
   のように、「資本減少公告」の要否について、「登記研究」では問題を提起されたのみ
   ったのが、一歩進めて、「稲葉説」を受け入れて、「資本減少の旨の公示をするのが適当
   であろう」と、「資本減少公告」をするのが「適当であろう」と積極説を、初めて提唱
   された。

【資料2】 「商事法務1016号」昭和59年8月5日 社団法人商事法務研究会 発行
     「合併時の減資と合併公告の記載
      ――昭五九・三・二八民四第一七三三号
              民事局第四課長回答について――」
      須藤純正 法務省民事局付検事 62〜66・81頁

「 次に、合併による資本の増加額の決定について、商法二八四条ノ二の規定の適用があるか
どうかが問題となる。この点については、存続会社が消滅会社から承継した純財産の価額(合
併交付金をも控除する)が合併に際して消滅会社の株主に対して発行される新株の発行価額の
総額に当たるから、少なくともその二分の一は資本に組み入れること、すなわち合併により増
加する資本の額とすることを要するとの見解があるが、そのように解すると、たとえば、商法
二八八条ノ二第三項は、純財産のうち利益準備金その他の留保利益については、資本準備金と
しないことができる旨を規定しているが、純財産の価額中において留保利益の多い会社では、
この商法二八八条ノ二第三項による取扱いができなくなって不都合であることなどに照らし、
商法二八四条ノ二の適用はないとする見解もある(稲葉威雄「大小会社区分立法に関する諸問
題(22)」本誌一〇〇九号三四頁)。 後者の見解は、承継純財産の価額の範囲内で適宜の増
資額を定めることができるが、複数の会社が合体すれば、その資本額も合算されるのが自然で
ある(人格合一説からは当然の結論ともいえる)から、合併後の会社の資本額が合併当事会社
の資本の合算額より少なくなるときは、異議申述公告において資本減少の旨をも記載するなど
の措置をとるのが適当であるとされる(前掲稲葉三五頁)。」(須藤純正「商事法務1016号」
64頁。アンダーラインは引用者が付けた。引用文中の「前掲稲葉三五頁」とは、稲葉威雄「大
小会社区分立法に関する諸問題(22)」商事法務1009号35頁を指している。)
 「次に、自己株式の消却とは無関係に前述した合併比率の公正の要請あるいは、消滅会社の
資本の欠損等によって、合併後の存続会社の資本額が合併当事会社の資本の合算額より少なく
定められることもあり得る。このような場合にも、自己株式の消却に伴う減資の場合と同様に、
会社債権者の利害関係に影響を及ぼすことになるが、合併公告にその旨を記載すべきであろう
か。 このようなケースにあっては、合併手続の中で表面的には資本の減少が行われていない
とみることもできる。しかしながら、このように増加資本の額が消滅会社の資本の額より少な
い場合も、消滅会社の側に資本の減少が生じているとみることもできる。そうであれば、複数
の会社が合体すれば、その資本額も合算されるのが自然であろうし、一般に、合併後の存続会
社の資本額が合併当事会社の資本の合算額よりも少なくなるときは、資本減少の旨の公示をす
るのが適当であろう(前褐稲葉三五頁)。人格合一説からは右のように解するのが自然であ
と思われる。」(須藤純正「商事法務1016号」66・81頁。アンダーラインは引用者が付
けた。)

【3】 上記の昭和59年8月5日発行の「商事法務1016号」において、「資本減少公告」
   をするのが「適当であろう」と積極説を提唱されたが、平成5年10月20日発行の「別
   冊ジュリスト124商業登記先例判例百選」では、「資本減少の旨を公示するのが適当
   といえよう」とより、強力に積極説を述べられている。

【資料3】 「別冊ジュリスト124商業登記先例判例百選」
      平成5年10月20日(29巻4号)株式会社有斐閣発行
      「81 吸収合併に際して資本減少をした場合の減資公告の要否」164〜165頁
      須藤純正(すどう・すみまさ)法務総合研究所教官

「 会社債権者に対するディスクロージャーの充実の見地からしても、合併公告中に資本減少
の旨を記載すべき場合をことさら狭く解することは好ましくなかろう。
 五 本件回答に関連して更に検討すると、まず、本件とは逆に存続会社が消滅会社の株式を
有する場合(例えば、親会社がその子会社を吸収合併するような場合もこれに当たる)、存続
会社がその所有する消滅会社の株式に対し、合併新株を割り当てることができるか否かについ
て争いがあるが、通説は合併新株を割り当てなくても差し支えないと解しており、実際上も、
合併新株の割当てをしないのが通例のようである。
 合併新株の割当てをしないということは、いったん合併新株を消滅会社の株主である存続会
社に割り当て、その結果存続会社が取得した自己株式を無償消却するという一連の手続を踏む
のと同じであるところ、この一連の手続を踏むことが無意味なのでこれを省略したにすぎない
ともいえる。この場合、形式的には自己株式の消却に伴う資本減少の問題は生じないわけであ
るが、本件回答のケースについて資本減少の旨の公示をするのと同等の公示を要すると解すべ
きではなかろうか。例えば、一〇〇%子会社を吸収合併するような場合は、合併公告中に、合
併新株の割当てをしない旨及び存続会社の資本が増加しない旨を記載するべきではなかろうか
(今井・新版注釈会社法(1)三九四頁は、反対)。
 この考え方は、自己株式の消却とはかかわりなく、合併後の会社の資本額が合併当事会社の
資本の合算額より少なくなる場合には、必ずその旨を合併公告に記載すべきという見解である。
すなわち、こうしたケースにあつては、合併手続の中で表面的には資本の減少が行われていな
いものの、増加資本の額が消滅会社の資本の額より少ない場合は、消滅会社の側に資本の減少
が生じていると見ることもできる。合併の法的性質について人格合一説に立てばなおさらのこ
ととして、複数の会社が合体すれば、その資本の額も合算されると見るのが自然であろうし、
そうであれば、一般に、合併後の存続会社の資本額が合併当事会社の資本の合算額よりも少な
くなるときは、資本減少の旨を公示するのが適当といえよう(前掲稲葉一五八頁)。」(「別冊ジ
ュリスト124商業登記先例判例百選」165頁、須藤純正稿「81 吸収合併に際して資本
減少をした場合の減資公告の要否」。アンダーラインは引用者が付けた。引用文中の「前掲稲
葉一五八頁」とは、稲葉威雄「大小会社区分立法に関する諸問題」別冊商事法務73号158
頁を指している。)


【4】 上記の昭和59年8月5日発行の「商事法務1016号」において、「資本減少公告」
   をするのが「資本減少の旨の公示をするのが適当であろう」と積極説を提唱され、平成
   5年10月20日発行の「別冊ジュリスト124商業登記先例判例百選」では、「資本
   減少の旨を公示するのが適当といえよう」といわれた、須藤純正法務総合研究所教官は、
   平成6年3月27日発行の『商業登記制度をめぐる諸問題』に所収されている論文では、
   さらに強力に、「必ずその資本減少の旨を合併公告に記載すべきであると考えたい。」と
   積極説を主張された。

【資料4】 『商業登記制度をめぐる諸問題』
      平成6年3月27日初版第1刷 株式会社テイハン 発行
      「会社の合併と公告」585〜604頁
      須藤純正(すどう・すみまさ)法務省法務総合研究所教官

「合併新株の割当てをしないということは、いったん合併新株を消滅会社の株主である存続会
社に割り当て、その結果存続会社が取得した自己株式を無償消却するという一連の手続を踏む
のと同じであるところ、この一連の手続を踏むことが無意味なのでこれを省略したにすぎない
ともいえる。」(須藤純正「商事法務1016号」(昭和59年)66頁、須藤純正『商業登記
制度をめぐる諸問題』(平成6年)600頁)
 「このような場合の実際上の公告としては、B説に沿う形で『合併並びに資本減少公告』と
題した上で『甲乙会社の株主総会において甲は乙を合併してその権利義務一切を承継して存続
し、乙は解散すること並びに甲の所有する乙の株式については合併による新株式を割り当てず
消却することを決議したので、金○○円資本減少する。ついては、この決議に異議がある債権
者は○月○日までに申し出られたい』、あるいは『甲乙会社の株主総会において甲は乙を合併
してその権利義務一切を承継して存続し、乙は解散すること並びに甲は乙の全株式を所有して
いるので、合併による新株式の発行及び資本金の増加は行わないことを決議したので、この決
議に異議がある債権者は○月○日までに申し出られたい』という記載をする例が一般的のよう
である。」(須藤純正『商業登記制度をめぐる諸問題』(平成6年)601〜602頁)
 「合併により消滅会社の資本額が当然に存続会社又は新設会社に承継されると考えるか否か
の問題でもある。…(中略)…この点について積極に解した上で、合併後の会社の資本額が合
併当事会社の資本の合算額より少なくなる場合には、必ずその資本減少の旨を合併公告に記載
すべきであると考えたい。こうしたケースにあっては、合併手続の中で表面的には資本の減少
が行われていないものの、増加資本の額が消滅会社の資本の額より少ない場合は、消滅会社の
側に資本の減少が生じていると見ることもできよう。」(須藤純正『商業登記制度をめぐる諸問
題』602〜603頁。アンダーラインは引用者が付けた。)



【参考資料】
    『実務相談株式会社法5』稲葉威雄他編
    平成4年12月29日新訂版第1刷 社団法人商事法務研究会 発行
    1337 株式譲渡制限会社が一〇〇%子会社を吸収合併する場合の公告
    亀田哲稿 348頁〜353頁

「 一 減資公告の要否
(1)ある会社(A)が他の会社(B)の株式を所有している場合において、B社がA社を吸
収合併したとき(例えば、子会社であるB社が親会社であるA社を吸収合併したとき。)、存続
会社であるB社は、合併により、消滅会社であるA社が所有するB社の株式を承継取得し、そ
の結果、B社は、自己株式を取得することとなります。会社が自己株式を取得することは、い
くつかの例外を除き禁止されていますが、合併によるときは、その例外の一つとして認められ
ています(商二一〇TA)。この自己株式については、相当の時期に処分することとされてい
ますから(商二一一)、相当の時期に売却したり、債権者に対する代物弁済に供することもで
きますが、合併と同時にこれを消却することも可能であり、この場合、消却した当該株式に見
合う額につき資本を減少するのが通例のようです。そして、このように株式消却・資本減少を
同時に行う場合は、合併手続の中で株式消却・資本減少手続を並行して行うことができますが、
債権者保護手続としてのいわゆる異議申述公告は、合併をなす旨についてのみならず、資本減
少をなす旨についてもしなければならないとされています(昭五九・三・二八民四第一七三三
号民事局第四課長回答)。
(2)また、反対に、ある会社(A)が他の会社(B)の株式を所有している場合において、
A社がB社を吸収合併したとき(例えば、親会社であるA社が子会社であるB社を吸収合併し
たとき。)は、存続会社であるA社が所有するB社の株式に対しても合併新株を割り当てるこ
とが可能であると解されていますので(昭三八・八・二一民四第二〇八号民事局第四課長回
答)、その場合も自己株式の取得の問題が生じます。そして、この自己株式を即時【改頁】
消却し、かつ、その分につき資本減少すれば、前記(1)の場合と同様となり、異議申述公告
は、合併をなす旨についてのみならず、資本減少をなす旨についてもしなければならないと解
されます。
(3)もっとも、前記(2)のような場合は、合併新株の割当ておよび消却という手間を省略
する意味から、存続会社所有に係る消滅会社の株式については最初から合併新株を割り当てな
いという方法もあり、貴社もその方法をとっていますが、その方法の方が、むしろ、一般的で
あるといわれています。このように新株の割当てをしないときは、自己株式の消却に伴う資本
減少の問題は生じないわけですが、実質的にみますと、前記(1)(2)の場合と区別する理
由がないと考えられますので、このように新株の割当てをせず、存続会社の資本を増加させな
い場合にあっても、前記(1)(2)の場合において要求されているのと同様の公告、すなわ
ち、合併新株の割当てをしない旨および存続会社の資本が増加しない旨の公告が必要であると
解されています(須藤純正「合併時の減資と合併公告の記載」商事法務一〇一六号六六頁、須
藤修=太田「合併・減資における信託の活用(下)」商事法務一〇六九号三二頁も、債権者へ
の情報開示の機会を広げるために商法三七五条にいう「資本の減少」は広く解すべきであると
して、合併に伴って存続会社が所有する消滅会社の株式に対して新株を割り当てず、その分資
本の増加もない場合は、法律上の「減資」にあたり、その旨の公告が必要であるとしています。
昭五九・三・二八民四第一七三三号民事局第四課長回答)。
(4)したがって、お尋ねの件については、貴社は、合併をなす旨のほか、合併新株の割当て
をしない旨および資本が増加しない旨をも公告することが必要になると思われます。」(亀田哲
『実務相談株式会社法5』349〜350頁。アンダーラインは引用者が付けた。)



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