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2001年5月12日(土)稿
平成9年9月19日民四第1709号通達は
「須藤説」に対する
「全部否定説」なのか「一部否定説」なのか
佐々木 正 己
【1】 「須藤説」とは?
平成9年改正商法施行前の官報公告実務においては、「須藤説」に基づき、「合併前の存続会
社の資本金」と「消滅会社の資本金」との合計額より、「合併後の存続会社の資本金」が少な
くなる場合については、「合併公告」の他に、「資本減少公告」を行っていた。
「須藤説」とは、須藤純正(すどう・すみまさ)氏がオピニオンリーダーで提唱された、平
成9年改正商法施行前の官報公告実務において通説であった、次のような説をいう。
「合併後の会社の資本額が合併当事会社の資本の合算額より少なくなる場合には、必ずその
資本減少の旨を合併公告に記載すべきであると考えたい。」(『商業登記制度をめぐる諸問題』
株式会社テイハン発行 須藤純正稿「会社の合併と公告」603頁)
言い換えると、「合併前の存続会社の資本金」と「消滅会社の資本金」との合計額が、「合併
後の存続会社の資本金」に満たない場合には、「合併に伴う資本減少」がある。つまり、次の
式が成り立つ場合には、「合併に伴う資本減少」がある。
「合併前」の存続会社の資本金+消滅会社の資本金>「合併後」の存続会社の資本金
さらに、言い換えると、次のようになる。
「存続会社」が合併に際して「増加する資本の額」が、「消滅会社」の「合併前の資本の額」
に満たない場合は、すべて、「合併に伴う資本減少」がある(須藤純正「商事法務1016号」
66頁・81頁、亀田哲『実務相談株式会社法5』349〜350頁、須藤純正「別冊ジュリ
スト124商業登記先例判例百選」165頁、須藤純正『商業登記制度をめぐる諸問題』60
3頁、村松洋平「商事法務1465号」30頁、早貸淳子「商事法務1479号」103頁、
中央信託銀行証券代行部法務課「商事法務1481号」13頁)。
【2】 全部否定説とは?
「須藤説」に対する「全部否定説」とは、平成9年9月19日民四第1709号通達(【資
料1】)の「存続会社の資本の増加額が消滅会社の資本の額より少ない場合でも、資本減少の
手続をとる必要はない(昭和五九年三月二八日民事局第四課長回答参照)。」との文言が、「須
藤説」を全部否定したと解釈する説である。
言い換えれば、「全部否定説」とは、平成9年9月19日民四第1709号通達(【資料1】)
に書かれている上記の文言中で括弧書きされている、「昭和五九年三月二八日民事局第四課長
回答」(【資料2】)の「有効性は否定された。」と考える説をいう。
さらに、言い換えれば、「全部否定説」とは、「合併後の会社の資本額が合併当事会社の資本
の合算額より少なくなる場合には、必ずその資本減少の旨を合併公告に記載すべきであると考
えたい。」(『商業登記制度をめぐる諸問題』株式会社テイハン発行 須藤純正稿「会社の合併
と公告」603頁)を全部否定するものである。したがって、次のように言い換えることもで
きる。
「たとえば、存続会社の資本が一億円あって、合併によって九、〇〇〇万円にするという場
合は減資だと思うのですけれども、そうではない場合は、あえて減資だという必要はない」(【資
料3】菊池洋一法務大臣官房参事官発言「商事法務1465号」平成9年8月5日「座談会
合併に関する商法改正に伴う実務上の対応」30頁)。
【3】 一部否定説とは?
「須藤説」に対する「一部否定説」とは、平成9年9月19日民四第1709号通達(【資
料1】)の「存続会社の資本の増加額が消滅会社の資本の額より少ない場合でも、資本減少の
手続をとる必要はない(昭和五九年三月二八日民事局第四課長回答参照)。」との文言は、「須
藤説」を一部否定したと解釈する説である。
言い換えれば、「一部否定説」とは、平成9年9月19日民四第1709号通達(【資料1】)
に書かれている上記の文言の中で括弧書きされている「昭和五九年三月二八日民事局第四課長
回答」(【資料2】)の「有効性は否定されていない。」と考える説をいう。
さらに、言い換えれば、「一部否定説」は、次のケース(表現は異なるが同一のことをいっ
ている。)の場合には、「合併公告」の他に、「資本減少公告」が必要であるということである。
(1) 「甲株式会社を存続会社とし、乙株式会社を消滅会社とする吸収合併を行い、合併
に際して、乙の有する甲の株式を消却し、その株式の数に対応する資本の額を減少す
る合併」の場合(【資料2】昭和59年3月28日付民四第1733号民事局第四課
長回答)
(2) 「合併に際してA社から承継した貴社の自己株式を無償消却し、その株式に相当す
る資本の額として500万円の減資を行うという」場合(【資料4】早貸淳子法務省
民事局第四課補佐官「商事法務1479号」104頁)
(3) 「合併手続と並行して合併によって取得した自己株式の消却分に見合う資本減少が
現実になされている場合」(【資料5】鳥本喜章「登記研究600号」85頁)
【資料1】 平成九年九月十九日付け法務省民四第一七〇九号法務局長、地方法務局長あて民
事局長通達 第2 株式会社に関する改正 1 合併に関する改正
(8) 資本の限度額の制限
「 存続会社の資本については、@消滅会社から承継する財産の価額からA承継する債務の
額、B合併交付金の額及びC法第四〇九条ノ二の規定により消滅会社の株主に移転する株式(合
併新株の代用として利用する自己株式)につき会計帳簿に記載した価額の合計額を控除した額
を限度として増加することができることとされた(法四一三条ノ二第一項前段)。この場合に
おいて、合併に際して額面株式を発行するときは、一株の金額にその株式の総数を乗じた額に
相当する金額は、資本に組み入れなければならない(法四一三条ノ二第一項後段)。
新設会社の資本についても、@消滅会社から承継する財産の価額からA承継する債務の額及
びB合併交付金の額を控除した額を超えることができないこととされた(法四一三条ノ二第二
項前段)。この場合において、合併に際して額面株式を発行するときは額面一株の金額にその
株式の総数を乗じた額を、また、無額面株式を発行するときは五万円にその株式の総数を乗じ
た額に相当する金額を、それぞれ資本に組み入れなければならない(法四一三条ノ二第二項後
段)。
したがって、合併による変更の登記の申請書には、合併により資本を増加するときは、法第
四一三条ノニ第一項前段に規定する限度額を証する書面を添付しなければならず(商登法九〇
条七号)、また、合併による設立の登記の申請書には、法第四一三条ノ二第二項前段に規定す
る額を証する書面を添付しなければならない(商登法九一条三号)。
申請人は、それぞれの場合の資本の限度額を証する書面として、@からBまでのそれぞれの
額を個別的に証明する書面を添付しなければならない。この場合において、法第四一四条ノ二
第一項の規定により合併登記の日の翌日から開示が要求される「承継シタル財産ノ価額及債務
ノ額其ノ他ノ合併ニ関スル事項ヲ記載シタル書面」は、@及びAを証明する書面として取り扱
って差し支えない。また、別途添付が要求されている合併契約書(商登法九〇条一号、九一条
一号)はBの合併交付金の額を証明する書面をも兼ねるものとして、また、会計帳簿中に記載
された当該自己株式の価額につき監査役が証明した書面はCを証明する書面として、それぞれ
取り扱って差し支えない。さらに、これらの各書面に代えて、存続会社又は新設会社の取締役
が@からCまでの額を具体的に摘示した上で当該限度額を証明した書面が添付されたときも、
当該登記の申請を受理して差し支えない。
なお、合併による資本の増加額は、法第四一三条ノ二の規定する限度額の範囲内であれば足
りることとされたため、存続会社の資本の増加額が消滅会社の資本の額より少ない場合でも、
資本減少の手続をとる必要はない(昭和五九年三月二八日民事局第四課長回答参照)。 」(ア
ンダーラインは引用者が付けた。)
【資料2】 昭和五九年三月八日2登(1)第五五号横浜地方法務局長照会、昭和五九年三月
二八日付民四第一七三三号民事局第四課長回答
(照会)
この度、甲株式会社を存続会社とし、乙株式会社を消滅会社とする吸収合併を行い、合併に
際して、乙の有する甲の株式を消却し、その株式の数に対応する資本の額を減少する合併によ
る変更の登記の申請がありました。この登記申請書の添付書類として、甲・乙が合併する旨の
公告をしたことを証する書面は添付されておりますが、資本減少に関する公告をしたことを証
する書面の添付がなく、また、前記合併公告中にも資本減少に関する事項の併記はなされてお
りません。
この場合、資本減少に関する公告をしたことを証する書面の添付がないものとして受理すべ
きでないと考えますが、反対に解する説もあって、受否につき決しかねておりますので、何分
の御指示をお願いします。
(回答)
本月八日付け2登(1)第五五号をもって照会のあった標記の件については、貴見のとおり
と考えます。
【資料3】 「須藤説」に対する「全部否定説」:「菊池説」
「商事法務1465号」平成9年8月5日 社団法人商事法務協会 発行
「座談会 合併に関する商法改正に伴う実務上の対応」6〜41頁
出席者 河本一郎 神戸大学名誉教授
菊池洋一 法務大臣官房参事官
井原誠吉 東京証券取引所上場部次長
中西敏和 東洋信託銀行証券代行部専門部長
村松洋平(司会)山一証券経済研究所常務取締役
「 村松 次に、「債権者保護手続」に入りたいと思います。
改正法では、知れたる債権者に対する個別催告の不要化が図られましたけれども、存続会社
・消滅会社における定款公告紙の掲載、すなわち官報から日刊紙へ変更して個別催告を省力す
るという費用節約とその公告費との関係については、小規模な会社についてはあまり効果は期
待できないのではないかと思いますが、中西さんいかがでしょうか。
中西 官報と日刊紙の公告料の差を考えますと、通常、わざわざ日刊紙に変更してまで個別
催告を省略するということによるメリットが生ずる会社は少ないのではないかと思います。
村松 また、合併に際し減資が行われた場合の個別催告の省略についてですが、一〇〇%子
会社の合併等において減資が行われた場合、現在は合併および減資の公告という形で公告も行
われているわけですが、この場合にも同様に個別催告が省略できるのかどうか、この点につい
ては、菊池官房参事官いかがでしょうか。
菊池 まず、債権者保護手続の中で知れたる債権者に対する個別催告が省略できるのは、合
併の場合だけでして、資本減少あるいは組織変更の場合には、個別催告は省略できないという
ことに、法律ではなっています。
ただ、村松さんから合併に際して減資が行われたという問題提起がありましたが、その減資
が本当の減資といいますか、存続会社の資本がいったん減るということであれば、それは資本
減少ですから減資の手続も別途とっていただく必要がありますけれども、消滅会社の合併前の
資本が丸々存続会社の資本として増資されないという場合は、今度の改正法のもとでは減資で
はないというのが、私の考えです。
それは、今度新しく商法四一三条ノ二という規定を新設しまして、これは存続会社が合併に
【改頁】よってどれだけ資本を増やすことができるかという規定ですけれども、雑に申し上げ
ますと、消滅会社からの承継純資産の範囲内で資本を増やすことができるということですので、
資本を増やさなくてもかまわないということが、この規定から読み取れます。たとえば消滅会
社の合併前の資本が一〇〇だったとして、存続会社が三〇だけ増資した場合、一〇〇よりも少
ないではないかといっても、それは減資とはいわない。したがって、その場合には減資の手続
をとる必要はないというのが、私の考え方です。
村松 今のご説明は、今まで私どもが理解していたのと少し違うような感じを受けるのです
けれども。昭和五九年三月二八日の法務省民事局第四課長回答との関係では、従来の考え方と
齟齬はないということになるのでしょうか。
「消滅会社の有する存続会社の株式を償却し、その株式の数に対応する資本の額を減少する
合併による変更登記の申請書には、資本減少に関しても公告したことを証する書面の添付を要
する」ということで、ここでは「消滅会社が有する存続会社の株式を償却」するということで
すけれども、これを敷衍して、消滅会社と存続会社の合計資本が合併後下回るというような場
合は、同様に資本減少の手続が要るのだと理解していたのですけれども。
菊池 従来はともかく、新しい法律のもとでは、先ほど申し上げました資本の増加額に関す
る規定が新設されましたので、合併後の資本が存続会社と消滅会社の資本の合計額よりも減る
から、それはすべて全部資本減少なのだということには、これからはならないのではないかと
いうのが私の考えです。また、登記の取扱いについては別途、改正法の施行までに検討するこ
とになるだろうと思っています。
河本 菊池さんがそういってくださると、非常に心強いですよ。ぜひその解釈でいっていた
だきたいと思います。
村松 そうしていただければ、手続上は非常に簡便になります。
河本 せっかく個別催告を省略できることにしたのに、無増資合併の場合は減資だというこ
とになると、これは何のために改正したのかわからなくなりますしね。
それと、先ほどの四課長回答についての須藤さんの論文(「合併時の減資と合併公告の記載
――昭五九・三・二八民四第一七三三号民事局第四課長回答について――」本誌一〇一六号六
二頁)を読んでみても、資本がどうなるのかということを、開示すればいいというような読み
方もできるわけですね。資本減少といわなくても、資本がこうなりますよということさえ開示
すればいいんだというふうにも、読めるわけですね。つまり、「合併後の会社の資本額が合併
当事会社の資本の合算額より少なくなる旨を明示すべきだ」といっているのですね。
どちらにしてもこれは債権者保護なのですね。ところが債権者にしたら、この会社と合併を
しても自分の債権は危なくないと思えば、異議申立てはしない。危ないと思ったら異議の申立
てをしますね。だからその判断の中に、資本がどうなるかということも入っているはずなので
す。それを考慮して、この会社と合併しても自分の債権は危なくないと考えた、それで債権者
保護手続は済んでいるではないか。その上なお減資だからそのための債権者保護手続をとれ、
個別催告をやれという必要はないのではないかと思うのですね。ただ、資本がどうなるかとい
うことだけは、やはり開示しなければならない。
菊池 今の河本先生のご指摘ですけれども、資本が合併によってどうなるかは合併契約書に
記載されているはずでして、その合併契約書は本店に備え置いてあり、債権者で関心がある人
は誰でもみることができますから、わかるはずなのです。そういうことからいっても、たとえ
ば、存続会社の資本が一億円あって、合併によって九、〇〇〇万円にするという場合は減資だ
と思うのですけれども、そうではない場合は、あえて減資だという必要はないのではないかと
思っています。
村松 いまお話を伺うと「なるほど」という感じがいたします。」(「商事法務1465号」
平成9年8月5日「座談会 合併に関する商法改正に伴う実務上の対応」29頁〜30頁。ア
ンダーラインは引用者が付けた。)
【資料4】 「須藤説」に対する「一部否定説」:「早貸説」
「商事法務1479号」平成10年1月5日 社団法人商事法務研究会 発行
実務相談室(原田晃治 法務省民事局第四課長監修)
「存続会社が合併に際してする資本減少の公告」
回答者 早 貸 淳 子 法務省民事局第四課補佐官 102〜104頁
「合併後の貴社の資本の額が合併前の貴社の資本の額1億円とA社の資本の額5,000万
円を合算した1億5,000万円に満たないとしても、必ずしも、資本減少の手続を行う必要
はありませんが、合併に際してA社から承継した貴社の自己株式を無償消却し、その株式に相
当する資本の額として500万円の減資を行うということであれば、貴社が合併に際して発行
する新株について3,000万円を資本に組み入れられることにより、結果として存続会社の
資本の額が2,500万円増加することとなる場合であっても、資本減少の手続を省略するこ
とはできず、そのような場合の合併による変更登記の申請書には、資本の減少に関する公告を
したことを証する書面の添付が必要となる」(早貸淳子法務省民事局第四課補佐官「商事法務
1479号」104頁。アンダーラインは引用者が付けた。)
【資料5】 「須藤説」に対する「一部否定説」:「鳥本説」
「登記研究600号」平成10年1月30日 株式会社テイハン 発行
「合併における債権者保護手続について」69〜89頁
法務省法務総合研究所総務企画部付検事 鳥本喜章(とりもとよしあき)
「 右の(1)のとおり、今回の商法改正による四一三条ノ二の規定の新設により、存続会社
の合併による資本の増加額に関して、存続会社は承継純資産額の範囲内で自由に資本増加額を
定めることができることが明文で定められたが、注目すべきは、この四一三条ノ二の規定の新
設に伴い、立法担当者から、存続会社は承継純資産額の範囲内で自由に資本増加額を定めるこ
とができる以上、「存続会社は、合併をしても額面株式を発行しない限り、資本を増加しない
こともできる。また、存続会社の資本の増加額が消滅会社の資本の額より少ない場合でも、資
本減少の手続をとる必要はない」(傍線は筆者)という解釈が示されたことである(注21)。
【改頁】
そして、今回の法改正の施行に伴い発出された前記民事局長通達(平成九年九月一九日法務
省民四第一七〇九号法務省民事局長通達〉も、「なお、合併による資本の増加額は、法第四一
三条ノニの規定する限度額の範囲内であれば足りることとされたため、存続会社の資本の増加
額が消滅会社の資本の額より少ない場合でも、資本減少の手続をとる必要はない(昭和五九年
三月二八日民事局第四課長回答参照)。」と定め(同通達第二1G)、同様の立場に立つことを
明確にしている。
したがって、今回の商法改正における四一三条ノ二の規定の新設に伴って、右のような解釈
指針が示された以上、今後は、前記の事例1のように、合併手続と並行して合併によって取得
した自己株式の消却分に見合う資本減少が現実になされている場合は別として、前記の事例2
のように、合併後の存続会社の資本額が合併当事会社であるA会社とB会社との資本の合算額
よりも少ないという場合については、会社の債権者に対する異議申述のための合併公告の中で、
合併をなす旨と併せて資本減少に関する事項を記載して公示する必要はないことが明らかとな
ったといえる。これは、これまでの実務上必ずしも明確でなかった点について、統一的な指針
が示されたものであり、実務上大きな意味があるといえよう。」(鳥本喜章「登記研究600号」
84頁〜85頁。アンダーラインは引用者が付けた。)
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